こどもの本はおいしい

織田 まゆみ



修論を完成させなくてはならない“責務”に加えて、今年はなぜか事件が多く忙しい一年だった。考えてみれば、「ためにする読書」ばかりで、久しく、喜びの読書をしていない。疲れた心身をちょっと休め、身近のこどもの本に元気をつけてもらおう。

@『もこもこもこ』 谷川俊太郎作 元永定正絵 文研出版
しーん、もこ、もこもこ、にょき…と始まるが、詩と絵が見事に融合している。赤ちやんもとても喜ぶ。元永の絵は名古屋市美術館でもみることができる。

A『キャベツくんとブタヤマさん』 長新太作 文研出版
「キャベツくん」シリーズは数冊あるが、この本が最も荒唐無稽。ヘビとムカデとミミズがロールパンのように丸くなるところ、彼らが巨大魚から飛び出していくところが圧巻。

B『みどりいろのたね』 高楼方子作 太田大八絵 福音館
まあちやんは、えんどう豆といっしょに、メロンあめも植えてしまう。水をもらえなくても平気のあめは、たねたちとにらみあうが、「つまるやつか つまらんやつか いちど ぽくをなめてみるがいい!」という。ほめことばを聞きながら、あめはなめられ、そしてまあちゃんのえんどうのさやの中にはメロンあめがなる。すごく楽しくて、しばらくすると怖くなるお話。

C『のはらひめ』 中川千尋作 徳間書店
王子様を待つだけのお姫様を行動的な女の子に変えようという試みがいろいろなされているが、その意図がみえるとおもしろくない。その点、この作品はよく熟れていて楽しい。お姫様になるため、言葉使い、なぞなぞの勉強はともかく、美しい寝顔、王子が間に合わなかった場合に備えての龍との戦いの勉強などには笑ってしまう。

D『ねずみ女房』 R.ゴッデン作 W.P.デュポア画 石井桃子訳 福音館
主人公は「まだ、いまもっていない、何かがほしかった」家ねずみのめす。チーズのことしか頭にないおすねずみには、彼女の気持ちが理解できない。彼女は、捕えられ、籠に入れられたきじばとと知りあい、彼から飛ぶことの素晴らしさなど外の世界のことを話してもらう。そして、囚われて自由を奪われた者の苦しみに共感し、ついに彼を逃がしてやろうと決心する。薄い絵本に、ここまで深い思いや恋を描くことができるのかと驚嘆させられてしまう。

E『しやべる詩あそぶ詩きこえる詩』 波瀬潰子編 飯野和好絵 冨山房
詩の出版は多いが、いろんろな詩人の作品を一度に味わってみたい人には最適。波瀬のステージ「やってきたアラマ先生」を楽しく観たことがあるが、徹底的に、ことばを楽しむ人という印象だった。私は室生犀星の「タイのうた」が気に入っている。

F『空色匂玉』 荻原規子作 福武書店
ファンタジーを書く日本の若い作家の中で、この荻原と『精霊の守り人』(借成社)の上橋菜穂子が双壁をなすのではないかと私は思っている。荻原は日本の上代文学、上橋は文化人類学がバックボーンである。

G『機関銃要塞の少年たち』 R.ウェストール作 越智道雄訳 評論社
惜しくも、先年亡くなってしまったが、ウェストールの文章は、乾いていて静かだ。他に『かかし』『海べの王国』『ブラッカムの爆撃機』も翻訳がでている。Gは、いわゆる戦争ものだが、悲惨さというより、戦争の愚かさが、ひたひたと心に染み渡る。

H『海は知っていた一ルイーズの青春』 パターソン作 岡本浜江訳 借成社
双子の姉が、歌の才能のある妹、周囲からいつも注目を浴びているようにみえる妹に、嫉妬し続け、その上で、自分の道を探っていく話だが、とても迫力がある。原題は、 Jacob Have I loved l980.

I『イーダとペールとミニムン』 G.ファーゲルストローム作 G.ハリスン作・絵 北沢杏子・はまこペーション訳 アー二出版
性の問題は、子ども達に「教育」しようと話し始めても、それがそのまま我が身を逆照射する、ある意味で「こわい」ものだ。この本の他に『性の絵本全5冊』山本直英文 大月書店もいい。私は、うちの子ども達に、10歳になったら渡しているのだが、上の2人ともが、背表紙を反対にして本箱に入れているのには笑ってしまう。『わたしとあなた』アンデション・エークルンド著 直井京子訳 社会評論社もすごい。

J『子どもによる子どものための「子どもの権利条約」』 小口尚子・福岡鮎美 小学館
アムネスティ日本支部の「子どもの権利条約」の翻訳・創作コンテストの最優秀賞を受賞した14歳の2人の少女の作品。原文あるいは日本政府による訳と比較すると興味深い。私たち子どもは、保護の客体ではなく、権利の主体なのだと宣言している。

K『影との戦い』など「ゲド戦記」全4冊 ル・グウィン作 清水真砂子訳 岩波書店
最後は、アメリカのSF作家の書いたファンタジー。4巻目が、第3巻出版後18年もたって出版され、賛否両論があった。実は、このシリーズは私の修論の作品である。「読んだ人がいたら、ぜひお話きかせてね。」

(大学院学生)

The Chukyo University Society of English Language and Literature
Last modified: Fri Oct 2, 1998

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