マ−ヒ−のTHE HAUNTINGにおける
真相の提示方法とその効果

柳沢秀郎



1.円環形式上での真相提示の位置

この作品のおもしろさは、サスペンス部分を徐々に露にしていくのではなく、二回に分 けて明らかにするところにある。我々読者は、時として真相の提示が小出しであったり、 なかなか提示されなかったりすることにいら立ちを覚えるものである。まして子供が対象 であれば、真相提示の極端な遅れや間延びした真相の提示では良い結果は期待できないだ ろう。では、この作品において真相の提示はどの様に配置されているだろうか。この作品 は、いきなり主人公のバ−二−(Barney) の身に異変が起こるところで始まるが、最後は ハッピ−エンドに終わるので、円環形式にはめ込んで真相の提示位置を見ていくことにす る。二回の真相提示のうちの最初の一回目は第六章に置かれている。バ−ニ−の姉である タビサ(Tabitha)とガイおじさん(Great-Uncle Guy)との会話の中で提示される。この物 語は全十二章で構成されているので、ちょうど中間地点に配置されたことになる。そして 二回目の真相提示が十章の後半で行われる。もし、一回目の真相提示を最後にまとめて行 ったとしたら、明らかに間延びであり、読者の関心をつなぎとめ続けることは難しいだろ う。我々読者は知らず知らずのうちに、巧みに配置された一回目の真相提示によって、知 りたいという欲求から逃れられないサスペンスという海の中で、つかの間の息継ぎを許さ れるのである。なるほど、円環形式上の真相提示には細やかな配慮がなされていることが わかった。それでは二回の真相提示を「節」とした時、その前後を占めているのは何であ ろうか。

2.物語を占めるそのほかの要素

スト−リ−は真相提示以外の部分で進んでいくわけであるが、度重なる怪奇現象の所々 で巧みに見え隠れしている要素がある。すなわち、親子愛や兄弟愛といった言うなれば家 族の理想像ともいうべき描写である。これはバ−二−の家族の中に描き出されている。こ の描写と対をなすようにして描かれているのがスカラ−家(Scholars)の描写である。彼ら はひどく陰鬱に描かれているのであるが、中でも怪奇現象の主犯であるコ−ルおじさん (Great-Uncle Cole)はバ−ニ−とは対照的で、不幸の象徴として描かれている。こんな描 写が第九章にある。

It was overflowing into him from Great-Uncle Cole. Somewhere in the early morning town Cole was wandering around looking at places he remembered,and something about the pattern of the street,the old library,the town square was filling him with pain.

それはコ−ルおじさんから(バ−二−に)流れてきていた。朝もまだ早 い町のどこかで、コ−ルはあたりをぶらつきながら見覚えのある場所を 眺めていた。そして通りを形成しているもの、すなわち古い図書館や 広場などを見ると彼は胸を締めつけられそうになるのだった。

引用文からもわかる通り、コ−ルに感じられるのは悪役の持つ残酷さではなく悲壮感で ある。母親に疎んじられ傷ついた幼心が、再び町を訪れたことによって思い出されたので ある。
このようにさりげなく家族の理想像と、それに対立するものを配置している。しかしこ れらは読んでる途中の段階ではほとんど意識されないことである。なぜならば読者は真相 の解明に夢中になっているからである。これらの布石がうまく結びついて効果を発揮する のが二回目の真相が提示される時である。次では真相提示の仕方とそれに伴う効果を見て いくことにしよう。

3.真相提示の仕方

怪奇現象とその裏に潜んでいた真相がどのようにして暴かれていくかという問題は、提 示回数が二回に限られているだけに非常に興味深いものである。そこで一回目の提示につ いて見てみよう。最初の提示は上でも述べたように、タビサがガイおじさんから聞き出す という形で行われる。すなわちここでの真相提示は、彼女の奔放な好奇心と弟への愛情に よってもたらされるのである。これら二つの要素は、抑圧的で愛情の薄いスカラ−家と対 照的なものである。続いて二回目の真相提示についてみてみよう。二回目は、トロイ (Troy) という長女によって告白される。この告白は長い間守り続けてきた母親との約束 を破った上での行動である。すなわち二回目の真相提示は封印を破ることによってもたら されたことになる。まとめると、真相解明すなわち問題解決に一役買っている要素が次の 三つであることがわかる。

  1. 兄弟愛、家族愛
  2. 性格、精神面の奔放さ
  3. 精神的抑圧(戒律)の打破

これら三つは見事にスカラ−家に欠けている要素である。読者は最終局面でトロイの告白 を聞いて、ことの真相を知るだけでなく上で述べた布石を一気に結びつけ、二つの家族を 対極に位置付けた上で、作品全体がうまくつながっていることに納得するのである。円環 形式に配置された二回の真相提示とその間を占める布石、そしてその提示の仕方が作品を おもしろくしているのである。

大学院博士課程学生


The Chukyo University Society of English Language and Literature
Last modified: Thu Apr 30, 1998

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