基礎的知識を身につける為の教育を

中村 賢一



現代の若者は、根気がなく無気力で粘り強さに欠ける面が多いと言われています。 そして、何故このようになってしまったのか、明確に答えることはできません。 しかし、その一つとして戦後の教育のあり方に関係があると思われます。 すなわち、日本独自の暗記中心ではなく、創造力に重点を置いたアメリカ的戦後の教育にあると。

戦後の教育では、理屈ぬきに一つの事柄を根気強く、粘り強く、反復して暗記するという学習があまり行なわれず、 「理解力」「創造力」という言葉にふりまわされてきたのです。 現代の若者に粘り強さがないのは、粘り強く基礎を反復して暗記するという学習が行なわれなくなったことに一因があるのではないかと考えられます。

そこで私は、今日の教育的問題として、創造力を養う前に基礎的事項を徹底的に反復し、暗記することが、きわめて重要であると考えます。

戦後のアメリカナイズされた日本の教育は、戦前の暗記中心の教育的弊害を改める為に、物事を一つずつ理解して覚え創造力養成に努力してきました。 そして、かなりの効果が見られ個性的できわめてユニークな人間を育てることに成功したと考えられていますが、はたしてこれは、真実でありましょうか。 今日、欧米にみられるような真に自主独立精神を持ち、自己の考えだけで物事にアタックする人々は、ほとんどいません。 日本人は、グループをつくり、集団で行動し、なるべく対立を避けて「和」を尊ぶ傾向があります。 今日においても傾向は変わらず、独立精神を身につけたとは言えません。 しかし、自己主張が強く対立を好む欧米人の個人主義と異なり、「和」を尊ぶ日本の教育は、とてもすばらしいと思います。

戦後、日本の教育は頭で理解することのみに力を注ぎ、基礎的な事柄を理屈ぬきに覚えることが、ほとんどなされてきませんでした。 意味もわからず数学の答えを暗記し、テストで良い点をとる。 文章を理解もしないで、まる暗記してしまうことが一般にはナンセンスであると思われています。 しかし、私は必ずしも意味のないことであるとは考えません。たとえぱ、数学の場合、公式は暗記しておかなければ問題を解くことはできません。 しかし、何故このような公式が成り立つのかを、自力で正確に理解しようとしたら、かなりの年月を要するでありましょう。また英語の場合は、明白であります。 完全に暗記しなければなりません。頭よりも感覚を通じて学んだものだけが真に血となり肉となるのです。このプロセスを経て、真の創造性が生まれてきます。 すべてにおいて、進歩を望むなら、どんどん暗記して実力を身につけることが重要であると思います。

戦後、日本は、アメリカナイズされ、いたずらに個人主義を信奉し、日本人が有する種々の良いものを失ってしまった。 日本人の精神は不安定となり確固とした信念もなく、「創造力」という言葉を受け入れ、暗記中心的教育を否定し、 基礎的知識習得をなおざりにし、何でも「ユニーク」という言葉を盲目的に信じてきました。 その結果、何事であれ五感ではなく観念的にものをとらえ、空理空論を吐く者が多々存在するに至った。

今日、教育上の問題で最も重要視しなければならないことは、基礎的事項を一つずつ根気よく、くりかえし覚え肉体の一部とすることである。 そのプロセスの中で、根気強い、克己心のある若者が必ず育ってくると、私は信じています。

(文学研究科英文学専攻修士課程修了)


The Chukyo University Society of English Language and Literature
Last modified: Tue Nov 17, 1998

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