幼年時代の良き友

沖田 啓治



先日、車雑誌を読んでいて、思い出したことだが、まだ幼い頃、僕はペダルカー を持っていた。ボディカラーは赤、横にはチェッカーフラッグとペガサスのエン ブレムが取りつけてあり、左右どちらか片側にはバックミラーも付いていた。ボ ンネットには赤いランプがあり、ハンドルのスイッチを入れると点滅した。シー トは黒のビニールで、タイヤは白だった。以前は、ここまでしか覚えていなかっ た。しかし、中学生のとき、昔のアルバムを見ていると、弟が三輪車に乗り、そ の横で僕が車に乗っている写真を見つけた。驚いたことに、その車はシボリー・ コルベット・スティングレイの型をしていた。(角型リトラクタブル・ヘッドラ イト、ボンネットに張り出したオーバーフェンダーのデザインと言えば、車に詳 しい人なら、すぐわかるだろう。)

話は元に戻り、暇なときはいつもそれに乗って遊んでいたものだ。家の庭だけに 限らず、町道にも出て乗っていたし、わざと石垣にぶつけたりしたこともあった。 (それでも壊れなかった。)そしてまた、庭から町道へ出る通路が下り坂になっ ているのだが、その坂を車に乗ったまま一気に下り、左右の安全確認もせずに、 町道まで飛び出したりもした。今思えば、かなり恐ろしいことをしていたものだ。 しかし、ある日ハンドルを切り損ねて、町道を横切り、田植えが終わったばかり の田に突っ込んでしまった。その時、どんな怪我をしたか、車はどうなったかは 思い出せない。話によると、ペダルが動かなくなり、ハンドルも曲がってしまっ たらしい。

時は過ぎ、もうこの車に乗るには恥ずかしい歳になっていた。覚えている限りで は、乗らなくなってしばらくは、物置に収められていた。何か寂しそうだって気 もする。今思えば、もう少し大事に扱ってやればよかった。幼年時代を楽しませ てくれた、このシボレー・コルベット・スティングレイの型をしたペダルカーに、 改めて御礼を言いたいものだ。


The Chukyo University Society of English Language and Literature
Last modified: Fri Jul 3, 1998

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